【コラム】「顧客第一」は本当? 金融庁のレポートから見えてきた、私たちの資産を守るための知恵

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金融庁が毎年「チェック」を入れる理由

「国民のみなさんが安心して金融商品を選び、着実に資産を増やしていける環境をつくりたい」——そんな想いから、金融庁は2017年に「顧客本位の業務運営に関する原則」を公表しました。さらに2024年11月には、法律(改正金融サービス提供法)でも「お客様の最善の利益を一番に考えて提案する義務」が明確に定められています

監督官庁である金融庁は毎年、全国の銀行や証券会社などの金融機関に対して、「本当にお客さまのことを考えた提案ができているかな?」と厳しくチェック(モニタリング)を行っています。2026年7月に公表された最新のレポート「リスク性金融商品の販売・組成会社による顧客本位の業務運営に関するモニタリング結果について(2025事務年度)」は、一部の金融機関における経営方針から現場の販売スタイル、社内のチェック体制までを細かく検証した、いわば「業界の健康診断書」のようなものです。

「商品は変わっても、やり方は変わらない」という一部の現場

金融庁が過去のレポートでも繰り返し指摘しているのが、一部の金融機関において「売り手都合の販売手法」が形を変えながら残ってしまっているという問題です

かつては投資信託を頻繁に買い直させる「回転売買」が問題になりました。それが指導されると、次は「仕組債(複雑でリスクの高い債券)」の再販売へ。仕組債が売られなくなると、今度は「一時払外貨建て保険」の乗り換えや「外国株式」の短期売買へ……

データを紐解くと、特定の金融商品が売られなくなると、まるでその穴埋めをするかのように別の商品の販売額が急増しているケースが見られます(下図:リスク性商品の販売額の推移)。仕組債と入れ替わりで、一時払保険やファンドラップの販売額が伸びている傾向がうっすらと見えるのです。指摘された商品をやめるだけで、結局は「手数料稼ぎのための乗り換え提案」という本質が変わっていない現場が存在しているのです。

金融庁も今回のレポートの中で、「目先の課題に表面的な対応をするだけで、根本的な原因に向き合い、組織を本気で変えようとしていない金融機関があるのではないか?」 という強い疑問を投げかけています

なぜ「顧客第一」が絵に描いた餅になってしまうのか?(4つの構造的な課題)

なぜ、一部の金融機関でこうした問題が起きてしまうのでしょうか。レポートで挙げられている事例を見ると、組織の仕組みに潜む4つの課題が浮かび上がってきます

① 経営陣の姿勢と「評価体系」の問題

お客さま本位の営業を広めるには、何よりも経営陣(トップ)の強い思いと明確な方針が必要です。しかし、経営層の対応が形だけで終わっていたり、現場任せになってしまったりしている金融機関が見受けられます

また、そうした組織では「お客さまのための取り組み」を評価する項目を作ってはいるものの、実際の営業担当者の評価では「いくら手数料収入をあげたか」という収益目標の配点が圧倒的に高く設定されている傾向があります。経営トップの本気度が伴わず、評価の仕組みが「収益重視」のままであれば、現場が自分の評価のために手数料の高い商品を売りたくなってしまうのは、構造上の大きな問題といえます

② お客さまに「ふさわしいか」ではなく、「売りたいもの」を優先する

最近注目されているリスクの高い新しい商品や仕組みの難しいファンドなどについても、リスクの検証が不十分なまま販売されている事例が報告されています。その結果、十分な資金の余裕がない方や、手持ち資産の多くをハイリスクな商品に投資させられてしまうような不適切なケースも発生しています

お客さまの資産状況や投資目的に合っているか(適合性の原則)よりも、「今、会社が売りたい商品」を優先して提案してしまう姿勢が一部に残っています

③ お客さまの情報が更新されず、アフターフォローも形骸化している

提案の前提となる「お客さまの資産状況やリスクの取り方」が最初の取引の時から更新されず、実態とズレたまま営業が行われている事例も指摘されています

さらに、商品を買ってもらった後の「継続的なサポート」が不十分で、アフターフォローと称して実質的には別の新しい商品を売り込む機会にされているケースもあります。本来必要な「運用状況の丁寧な報告や見直し」がおろそかになっている実態があります

④ 社内の「チェック機能」が働いていない

本来なら、法律を守っているかだけでなく「本当にお客さまの利益になっているか?」を社内でチェックすべきです。しかし一部の現場では、「手続きの書類が揃っていればOK」「お客さまのサインや印鑑があればOK」という形式的な確認にとどまり、本当にお客さまの気持ちに寄り添った提案だったかの確認がなされていない事例も見られます。

営業担当者は「アドバイザー」ではなく「セールスマン」

もちろん、すべての金融機関や営業担当者がこのような対応をしているわけではありません。親身になって誠実にお客さまに向き合っている金融機関や担当者もたくさんいます。

ただ、一部の組織で見られるように、評価や管理の仕組みが「収益優先」になっている環境では、現場の担当者は「お客様目線のアドバイザー」としてではなく、「自社の目標を追うセールスマン」として動かざるを得なくなります。このような構造的な問題を抱える窓口では、真の意味でお客さまの立場に立ったバランスの良い資産形成のアドバイスを期待するのは難しいのが現実です。

まとめ:金融機関と賢く付き合うために

私たちがこのレポートから学ぶべき一番大切なポイントは、「金融機関と私たちの間には、構造的に利益がぶつかりやすい場面がある」 という事実を冷静に知っておくことです。

金融機関が儲かる商品(手数料が高い商品)と、私たちが利益を得やすい商品(手数料が安い商品)は、同じではありません。

金融機関の窓口や営業担当者に「すべておまかせ」で無防備に相談しに行くことには注意が必要です。ご自身の貴重な資産を守り、安全に育てていくためには、次のような意識を持つことが大切になります。

  • 相手は「あなたのことを真剣に考えているアドバイザー」なのか「単なる商品の販売員」なのかを意識する
  • なぜその商品を勧められているのか(手数料はいくらかかるのか)を確認する
  • 安易な乗り換えの提案にはすぐ飛びつかず、第三者の意見(セカンドオピニオン)も参考にする

「自分の資産は自分で守る」という少しの自衛意識を持つだけでも、資産運用の安心感は大きく変わってきますよ。

金融機関との距離感の大切さや適切な相談相手の選び方については、著書「父が溶かした退職金(上・下)」にも記載しています。ぜひご参照ください。

【次回以降のコラム予告】 今回の金融庁レポートでは、金融機関の組織体制だけでなく、具体的な金融商品である「ファンドラップ」や「投資信託」の販売実態やリスクについても深く分析されています。今後のコラムで取り上げる予定です。

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