あなたの勤務先には「企業型確定拠出年金(企業型DC)」制度はありますか? あなたは、企業型DCの状況を直近でいつ確認されましたか?「会社がお金を出してくれているから、とりあえずそのままにしている」という方も多いでしょう。しかし、その「そのまま」が、将来のあなたの資産にどれほどの差を生むのかを考えることも大切です。
2026年3月に企業年金連合会から公表された「2024年度 企業型確定拠出年金実態調査結果」は、まさにその実態を浮き彫りにしています。2,000社を対象とした調査で834社から回答を得た、非常に価値のある最新データです。
そもそも「企業型DC」とは?
企業型DCは、会社が掛金を拠出し、従業員が自らの責任で運用商品を選んで資産を築く制度です。運用益が非課税になるなど、公的な税制優遇を最大限に活用できる「最強の自分年金作り」の場といえます。
今回の調査によれば、会社側の掛金(他制度がない場合)は10,000円から20,000円がボリュームゾーンとなっています(図表1)。決して小さくないこの金額を、どう「育てる」かが問われています。
図表1:事業主掛金(1人当たり月額)

マッチング拠出という「眠れる武器」
注目すべきは、自分の給与から掛金を上乗せする「マッチング拠出」です。現在、約半数の企業がこの制度を導入していますが(図表2)、実際に利用している従業員はわずか35.2%しかいません(図表3の情報を全体で平均した値)。利用者の平均拠出額は5,000円〜10,000円程度です(図表4)。
図表2:マッチング拠出導入状況

図表3:マッチング拠出導入企業のうち、加入者掛金を拠出している加入者の割合

図表4:加入者掛金(1人当たり月額)

これまでは「事業主の掛金を超えてはならない」という制約が壁になっていましたが、この制約は2026年4月に撤廃されました(詳細はこちらのコラムを参照ください)。より多くの額を拠出できるようになるため、この制度を使わない手はありません。
運用商品の「多すぎ問題」と「アクティブ型」の疑問
運用環境に目を向けると、深刻な課題が見えてきます。提示されている運用商品の平均本数は22.1本と、昨年よりもさらに増加しました。投資経験のない人がこれほど多くの選択肢を渡されても、選択に苦慮してしまうのは目に見えています。
図表5:運用商品の本数

さらに、その中身を詳しく見ると疑問が浮かびます。投資信託18本のうち、指数に連動する「パッシブ型」が11本に対し、プロが銘柄を選ぶ「アクティブ型」が7本ラインアップされています(図表6)。
図表6:運用商品に占める投資信託の本数

長期運用においてアクティブ型がパッシブ型に勝ち続けるのは至難の業です(詳細はこちらのコラムを参照ください)。それにもかかわらず、手数料(コスト)の高いアクティブ型をこれほど多く並べる必要性が本当にあるのでしょうか? 従業員を迷わせ、結果的にコストの高い商品を選ばせてしまう懸念すら感じます。
一方で、商品のラインアップを見直した企業が25%にのぼるというデータもあります(図表7)。除外という手間のかかる作業を6.5%の企業が行っていること(昨年より増加)は、従業員のために商品を厳選しようという前向きな動きと言えるでしょう。しかしながら、追加のみを行った18.6%の企業は、取引金融機関から影響を受けて追加した可能性を捨てきれないように思えます。
図表7:商品ランナップの見直し

「デフォルト商品」に潜むインフレのリスク
自分で商品を選ばなかった場合に適用される「指定運用方法(デフォルト商品)」についても見過ごせません。いまだに約6割の企業が「元本確保型(定期預金など)」をデフォルト商品にしています(図表8)。
図表8:指定運用方法(デフォルト商品)

企業担当者は、運用成績が悪化した際に従業員から責められることを恐れているのかもしれません。しかし、長期運用における真のリスクは一時的な価格変動ではなく、「インフレによってお金の価値が目減りすること」です。
せめて「ターゲットイヤー型」や「低コストなバランス型投信」をデフォルトに設定し、従業員の資産をインフレから守る姿勢が必要です。
資産形成の本質:4.7%という数字をどう見るか
制度導入以降の平均運用利回りは、年率4.7%という結果が出ています(図表9)。これは過去10年以上の世界的な株価上昇の恩恵を享受できた結果と言えるでしょう。
図表9:平均運用利回り(制度導入以降の通算)

しかし、ここで誤解してはいけないのは「調子がいいからもっとリスクを取るべき」ということではありません。長期運用とは、良い時も悪い時も経ながら、数十年かけて資産を育てていくものです。元本確保型商品に置きっぱなしにするということは、この「成長の波」を最初から放棄し、インフレリスクに無防備なまま立ち尽くすことを意味します。資産を元本確保型だけで運用している人がいまだに22.6%(報告書に数値の記載あり)もいる現状は、早急に見直されるべきでしょう。
まとめ
利用者の皆さんへ:自分の未来の土台作りは「放置しない」。その後の行動は「放置する」
マッチング拠出の改訂により、2026年からはより自由な資産形成が可能になります。自分のお財布との相談は必要ですが、強力な税制優遇を活用しないのはもったいないことです。
商品選びで大切なのは、一時的な流行りに乗って高コストな「アクティブ型」を選ぶことではありません。低コストで広く分散された「インデックス型」を選択し、インフレに負けない土台を作ること。あとは基本、放っておけばいいのです。ゴールは遠い未来にあるのですから。
企業の担当者の方へ:誰のための制度か?
デフォルト商品を「元本確保型」に逃げ込ませるのではなく、従業員の長期的な成果につながる商品への変更をお勧めします。
運用のプロでもない従業員を迷わせるような、過剰なラインアップも不要です。金融機関に言われるがまま、手数料の高い投資信託を並べることは「地雷」を仕掛けるようなものです。
商品ラインアップを見れば、その会社が「金融機関の方を向いているのか」、それとも「従業員の人生を真剣に考えているのか」がはっきりとわかります。企業型DCの最大のメリットを、従業員が最大限に享受できる環境を整えること。それが、真の意味での福利厚生ではないでしょうか。
※補足:入り口だけでなく「出口」と「途中」にも目配りを
企業型DCは、掛金の所得控除や運用益の非課税といった「入り口」のメリットが強調されがちです。しかし、数十年後の「出口(受取時)」には、他の退職金や年金との兼ね合いで税金が発生するケースもあり、実は非常に複雑な制度でもあります。
また、転職や退職の際に手続きを忘れ、資産が「自動移換(放置状態)」になって管理手数料だけが引かれ続けてしまうケースも後を絶ちません(詳細はこちらのコラムを参照ください)。
制度の恩恵を最後まで受け切るためには、「運用の見直し」と同じくらい、「出口の戦略」と「環境変化時の手続き」が重要です。これらについては、また別の機会に詳しく解説したいと思います。


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