金融庁は毎年、全国の銀行や証券会社などの金融機関に対して、「本当にお客さまのことを考えた提案ができているかな?」と厳しくチェック(モニタリング)を行っています。その最新レポート「リスク性金融商品の販売・組成会社による顧客本位の業務運営に関するモニタリング結果について(2025事務年度)」が2026年7月に公表されました。
先日のコラム『「顧客第一」は本当? 金融庁のレポートから見えてきた、私たちの資産を守るための知恵』では、金融機関の現場の販売スタイルやチェック体制の課題を取り上げました。今回のコラムでは、具体的な商品である「ファンドラップ」の販売に関する課題を取り上げます。
「おまかせ運用」で人気のファンドラップ
テレビCMや金融機関の窓口などで「専門家があなたに代わって資産を運用・管理します」というフレーズを見かけたことはありませんか?これが「ファンドラップ」と呼ばれるサービスです。
簡単に言うと、「お金の運用を、最初から最後までプロにぜんぶ丸投げできるおまかせパック」のような仕組みです。
例えるなら、自分で航空券やホテルを一つずつ予約するのではなく、計画から手配・添乗まで全部セットになった「おまかせ旅行ツアー」を頼むようなイメージです。
契約する際は、自分のリスク許容度や目的に合わせて「積極運用コース(高リスク)」や「慎重運用コース(低リスク)」といった運用スタイル(コース)を選び、あとはプロがそのコースに合わせて自動で運用・管理をしてくれます。自分で個別の投資信託等の商品を選ぶ必要がないため、「知識がないからおまかせしたい」という人に人気があります。
金融庁が2026年7月に公表した最新のレポートによると、大手証券やメガバンクなどでのファンドラップの預かり資産残高は増加傾向にあります。退職金などのまとまった資金を持ったシニア世代を中心に、多くの方が利用しているのが現状です。

「難しくてよく分からないからプロにおまかせしたい」というニーズに一見ぴったり合っているように思えるファンドラップですが、金融庁のレポートを深く読み解いていくと、私たちが知っておくべき大きな注意点が浮き彫りになってきます。
「バランス型投信」と何が違う?問われる付加価値
ファンドラップは単に投資信託を買うのとは違い、「一人ひとりの運用方針に合わせた資産配分の設計・管理」「定期的な見直し」「継続的な相談(アフターフォロー)」といったサービス(役務)がセットになった包括的な仕組みです。
そのため、私たちが払う費用には「投資信託自体のコスト」だけでなく、そうした「管理・コンサルティングへの対価(投資顧問料など)」が上乗せされています。
ここで冷静に考えたいのが、「その高いコストに見合うサービスが本当に提供されているか?」という点です。
現在では、「バランス型インデックスファンド」や「ラップ型ファンド」など、あらかじめ決まった配分で分散投資できる商品が豊富に揃っています。そして、コストの違いがあります。金融庁もレポートで、これら商品との比較や、受け取る報酬に見合った付加価値が本当に提供できているのかを厳しく検証すべきだと指摘しています。

定型的な運用管理や、一般的な運用報告程度しか行われていないのであれば、高いコストを払ってまでファンドラップを選ぶ意味は薄れてしまいます。「素晴らしいサービスを謳うことで、高い手数料を得ること」が目的になってしまっていないか、疑問が残るところです。
特に危険!「低リスクコース」で起きているコスト負け
レポートの中で特に深刻な課題として挙げられているのが、「低リスクコース」におけるコストとリターンの逆転現象です。
リターンは少ないのに、手数料はしっかり取られる
慎重な運用を希望する初心者や高齢者の方は、リスクを抑えた「低リスクコース」を選びがちです。しかし低リスクコースは、元々大きなリターン(増え幅)を狙わない設計になっています。
一方で、金融機関側が取る管理手数料などは、高リスクコースでも低リスクコースでもあまり変わりません。その結果、「目指せるリターンに対して、引かれるコストの割合が大きくなりすぎる」という構造的な問題が発生します。運用益よりも手数料の方が高くつき、実質的にマイナス(コスト負け)になってしまうこともあり得ます。
機械的なコース選択と説明不足
金融機関の窓口で「安全に運用したい」と伝えると、深く考えずに機械的に「低リスクコース」を提案されるケースが見られます。
「高いコストがかかりますよ」という不都合な説明は控えめになりがちで、顧客が納得・理解していないまま契約が進んでしまうことも課題として指摘されています。初めから期待リターンがコストに見合わないと分かっているような提案は、顧客本位とは到底言えません。
「ほったらかし」の闇と「接点が増える」リスク
ファンドラップにおけるもう一つの大きな問題は、「顧客と金融機関の間に生まれる歪んだ関係」です。
「ほったらかし」が生む闇
ファンドラップは本来「おまかせで長期保有できる」のが売りですが、売った後に丁寧なフォローや助言をせず「売りっぱなし」にしていても、金融機関には継続的な手数料が入ってきます。
顧客側も「プロにおまかせしているから大丈夫」とコストの重さに気づかず放置しがちです。しかし、放置し続けている裏で莫大な手数料を支払い続けるのです。
金融機関にとっても、顧客にとっても、お互いに波風が立たない「心地よい放置状態」が生まれていることこそが、大きな闇なのではないでしょうか。
「頻繁な連絡」が招くリスク
「では、金融機関がまめに連絡をくれてアフターフォローをしてくれれば解決するのか?」というと、実はそうとも言えません。
金融庁のレポートでも指摘されていますが、一部の現場では「アフターフォロー」と称して定期連絡を取り、実際には別の新しい商品や乗り換えを提案する『絶好のセールスの機会』として利用している事例が散見されます。
つまり、接点を増やせば増やすほど、窓口や電話で営業を受ける回数が増え、不要な商品の買い直しや複雑な商品へ乗り換えさせられるリスクが高まってしまうのです。
「ほったらかされて高い手数料を取られ続ける」のも嫌ですが、「まめに連絡をもらって別の商品を売り込まれる」のも困りもの。これこそが、販売窓口を持つ金融機関と付き合う際に向き合わなければならない難しいジレンマなのです。
まとめ:まとまった資金がある人ほど「自衛」が必要
今回の金融庁レポートの分析を総合すると、ファンドラップは「顧客が得られる価値に対してコストが高すぎる商品」になりやすい構造を抱えていることが分かります。
特に退職金などまとまったお金が入った方は、金融機関にとって絶好のターゲットになりやすいため注意が必要です。
本来、資産形成は「低コストな商品をじっくり長期で放置(ほったらかし)する」のが王道であり、最もストレスがありません。わざわざ高い手数料を払ってファンドラップを契約し、販売員と頻繁に接点を持つ(もしくは、放置して高い手数料を支払い続ける)必要性は低いと言えます。
無防備に窓口へ相談しに行く前に、ぜひ次の3点を心に留めておいてください。
- 低コストな別商品(バランス型ファンド等)と比較してみる
最初からファンドラップに絞るのではなく、同様の資産配分を低い手数料で実現できる一般的な投資信託などがないか、他の選択肢と並べて検討してみましょう。仮に目の前の金融機関に選択肢が無くても、他の金融機関なら選択肢があるのです。 - 「手数料率(%)」ではなく「実際の金額(円)」で計算してみる
「商品の信託報酬(%)」と「ファンドラップ口座の手数料(%)」を合わせて「年率約2.0%の手数料率」といった「%」の表示だけではピンと来づらいものです。「1,000万円預けると毎年20万円、10年で200万円の手数料になる」といった具体的な支払金額を割り出し、その手数料に見合った価値があるかを冷静に判断しましょう。 - 相手は「親切なアドバイザー」に見えるだけの「営業マン」だと考える
どれだけ丁寧で感じが良く見えても、相手の本質は自社の利益や売上目標を追う「商品の販売員」です。「顧客にとっての最善」と「販売員の都合(利益)」は必ずしも一致しないという前提を持ちましょう。
金融機関との間には「顧客のコストが金融機関の利益になる」という、逃れられない『利益相反』の構造があることを理解し、賢く大切な資産を守っていきましょう。
資産形成の注意点やポイントは、著書「父が溶かした退職金(上)」にも記載しています。ぜひご参照ください。


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