【コラム】「誰のための制度なのか?」ついに大改正へ。変わる法定後見制度と、いま私たちが知るべきこと

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「認知症になった人の財産を守るための制度」として知られる成年後見制度。しかし実際には、この制度の硬直的な仕組みによって「こんなはずじゃなかった」と後悔し、涙を流す家族が後を絶ちませんでした。

そんな家族を苦しめてきた「法定後見制度」が、今、大きな転換期を迎えています。2026年6月に成立した最新の法改正によって、これまでの課題がどのように解決へと一歩を踏み出したのか。2つの家族のストーリーを交えながら、わかりやすく解説します。

そもそも「成年後見制度」とは? 2つの制度を正しく知る

まず、誤解しやすい言葉の整理から始めましょう。「成年後見制度」という枠組みの中には、大きく分けて2つの制度があります。

  • ① 任意後見制度(認知症になる「前」に使う) 元気なうちに、「もし私が認知症になったら、この人に財産を管理してもらう」と、あらかじめ家族などと公正証書で契約を結んでおく制度です。
  • ② 法定後見制度(認知症になった「後」に使う) すでに認知症を発症し、判断能力が衰えてしまった後に、親族等が家庭裁判所に申し立てて財産管理等を行う人を決めてもらう制度です。

今回のコラムでスポットを当てるのは、後者の「法定後見制度」です。認知症を発症してしまった後は、本人の「契約する能力」がないため、①の任意後見は使えず、必然的に②の「法定後見制度」しか選択肢がなくなります。しかし、時代の変化に追いついていなかったこれまでの法定後見制度の仕組みこそが、多くの家族を悩ませてきた最大の原因でした。

2つの家族を襲った「法定後見」のリアルな悲劇

これまでの法定後見制度がどれほど冷酷なものだったのか、よくある2つの事例を物語風に見ていきましょう。

【物語A】遺産分割のために申し立てた、高橋さん一家

高橋さんの父親が、ある日突然亡くなりました。父親は「遺言書」を残していませんでした。 残されたのは、すでに認知症を発症し、施設で暮らしている母親と、2人の子どもたちです。

父親名義の預金を下ろし、実家の名義を変更するためには、家族3人全員で話し合って「遺産分割協議書」を作成し、全員の実印と印鑑証明書を揃えなければなりません。しかし、母親は自分の名前も書けない状態です。

困り果てた長男が銀行や専門家に相談すると、こう言われました。 「お母様に『法定後見人』を立ててください。裁判所の手続きを経て後見人が決まれば、その人がお母様の代わりに遺産分割協議書に実印を押せます。そうしないと、お父様の遺産は動かせません」

裁判所の案内には「一度選ばれた後見人は簡単にはやめられません」と書かれていましたが、長男は「遺産分割という大きな手続きのためのものだから、それが終われば日常に戻るだろう」と考え、家庭裁判所に申し立てをしました。

数ヶ月後、裁判所から選ばれたのは、家族の誰も会ったことがない見知らぬ弁護士でした。(実は現在、法定後見人の約8割は弁護士や司法書士などの専門家が選ばれており、親族がなれるケースはごくわずかです)。

その弁護士の立ち会いのもと、無事に遺産分割協議書が作成され、父親の遺産は綺麗に分けられました。長男はホッとして、「ありがとうございました。これで後見人の役割は終わりにしてください」と弁護士に告げました。

しかし、弁護士は静かに首を振りました。 「いいえ、やめることはできません。私はお母様が亡くなるその日まで、ずっと後見人として財産を管理し続けます」

長男は愕然としました。 そして、後見人が始まった直後からその言葉の本当の重さを思い知ることになります。 まだ母親の認知症がそれほど重くなく、車いすでの移動が可能だった頃、長男はある計画を立てました。両親が元気な頃に「毎年、夫婦で孫を連れて温泉旅行に行く」のを一番の楽しみにしており、母親も「またみんなで温泉に行きたいね」と漏らしていたからです。「車いすでも入れる貸切風呂のある温泉施設へ母を連れていこう。費用はお母さんの口座から出そう」と考え、弁護士に相談しました。しかし、弁護士の回答は冷たいものでした。 「後見人の使命は、お母様の財産を減らさないことです。旅行は『生きるために不可欠な支出』とは認められません。どうしても行くなら、あなたの自腹で行ってください」

母親の思い出の再現にお金を使うことすら許されないまま、母親はその10年後に亡くなりました。その間、その弁護士に支払う報酬は母親の口座から「毎月3万円」が自動的に引き落とされ続けました。10年間で、総額360万円です。日常生活の介護やお見舞いはすべて子どもたちが行っていましたが、その弁護士は2〜3ヶ月に一度、母親の様子を施設へ10分ほど見に来るだけでした。

長男は、通帳から消えていった大金の数字を見つめながら、「この制度は一体、誰のために、何を守っていたのだろうか」と悲しくなりました。

【物語B】介護費用を出そうとして口座凍結された、小川さん一家

小川さんの母親は、数年前から認知症が進行し、いよいよ在宅での介護が難しくなってきました。 長女は、母親のために手厚いケアが受けられる介護施設を見つけ、入所手続きを進めることにしました。

入居一時金や毎月の利用料は、当然、母親自身のこれまでの蓄え(定期預金)から支払うつもりでした。長女は母親の通帳と届出印を持って、大手銀行の窓口へ向かいます。

「母の施設への入居一時金として、定期預金から数百万円ほどおろしたいのですが」

そう告げた長女に、窓口の担当者は申し訳なさそうな顔で言いました。 「お客さま、大変申し上げにくいのですが……。数万円程度の毎月の施設代や医療費でしたら、領収書をお持ちいただければお身内の方でも引き出せるよう、最近は柔軟に対応しております。ただ、今回のような『数百万円にのぼる定期預金の解約』となると、ご本人様の明確な意思確認がどうしても必要です。お母様、こちらの書類にご署名や受け答えは可能でしょうか……?」

長女が「母は認知症が進んでいて、自分の名前も書けない状態なんです」と正直に答えた瞬間、窓口の担当者の表情が決然としたものに変わりました。

「左様でございますか。では、ご本人の意思確認ができない以上、大変心苦しいのですが、この口座は本日をもって『凍結』とせざるを得ません。これほど高額なお金を動かすには、家庭裁判所で『法定後見人』を立てていただくしかありません」

長女は頭が真っ白になりました。日々の介護のために親のお金をおろそうとしただけなのに、目の前でガシャリとシャッターを閉められたような衝撃でした。トラブルを恐れる銀行側の自己防衛とはいえ、家族にとってはたまったものではありません。

施設の支払い期日は迫っています。長女は泣く泣く、家庭裁判所に法定後見人の申し立てをしました。選ばれたのは、見知らぬ司法書士でした。

その司法書士の手によって口座の凍結は解除され、施設の費用は無事に支払われました。しかし、待っていたのは終わりのない足枷でした。施設への入所手続きという当初の目的が終わった後も、後見人を辞めさせることは一切できません。母親が亡くなるまでの7年間、毎月数万円の報酬が母親の財産から消え続け、実家の片付け費用ひとつとっても、司法書士から「本当に必要な経費か、見積書と領収書を出してください」と細かく追及され続ける、精神的な苦痛の数年間を過ごすことになったのです。

これまでの法定後見制度が抱えていた「3つの大問題」

2つのストーリーに共通する、現行の法定後見制度のあまりにも重い問題点は、以下の3つに集約されます。

  1. 「終身原則」という名の足枷(絶対に外せなかった) これまでの制度では、一度始まった法定後見は、本人が亡くなるまで絶対に途中でやめる(外す)ことができませんでした。「遺産分割が終わったから」「施設に入れたから」という理由での解任は、裁判所にいくら訴えても100%却下されてきたのです。
  2. 終わりのない経済的負担 見知らぬ専門家への報酬は、本人の財産額に応じて「毎月2万〜6万円」程度が、亡くなるまでずっと自動で引き落とされ続けます。これが何年も続けば、数百万円という大金が本人や家族のあずかり知らぬところで消えていきます。
  3. 家族の想いを無視した「財産の完全ロック」 後見人は「本人の財産を減らさない」ことが最優先されるため、家族が良かれと思って提案する「家族旅行」や「実家の片付け」といった柔軟なお金の使い方がことごとく制限されてしまう側面がありました。

ついに国会で成立! 新制度で何が変わる?

こうした「硬直的すぎて家族を不幸にしている」という長年の激しい批判を受け、ついに国が法律を変え、解決への大きな一歩を踏み出しました。

2026年6月17日、法定後見制度を抜本的に見直す「民法改正案」が国会で成立し、同年6月24日に公布されました。実際の運用開始(施行)は、公布の日から2年6カ月以内とされているため、遅くとも2028年12月までに施行される見込みです。つまり、これから数年の間に、私たちの選択肢は大きく変わろうとしています。

今回の改正における最大のポイントは、「必要なときに、必要な期間・目的だけ、ピンポイントで使えるようになる(終身原則の見直し)」という点です。

改正後に期待される具体的なメリット

新制度がスタートすれば、高橋さんや小川さんのようなケースにおいて、以下のような劇的な変化(メリット)が期待できます。

  • スポット(期間限定)での利用が可能に: 「遺産分割協議を行う間だけ」あるいは「口座凍結を解除して施設の入所手続きをする間だけ」という形で法定後見人をつけ、その特定の目的が達成されれば、後見人の役割を終了させることができるようになります。
  • 費用の劇的な削減: 役割が期間限定になれば、何年も、何十年も毎月報酬を支払い続ける必要がなくなります。数ヶ月分のわずかな費用で済むようになり、大切な財産を家族のために残せます。
  • 本人の意思や希望の尊重: 単に財産を「減らさない」だけでなく、本人が元気な頃に望んでいたこと(家族旅行など)に柔軟にお金を使えるような仕組みも盛り込まれています。

それでも残る課題と、私たちが気を付けるべきこと

制度が使いやすくなるのは大きな一歩ですが、手放しで喜ぶ前に、冷静に知っておくべき重大な課題があります。

課題①:外せるかどうかの主導権は「家庭裁判所」にある

新制度において、最大の懸念点となるのが「法律は変わったのに、実務では結局今まで通り外してもらえないのではないか」という点です。

確かに法律上は「目的が終われば外せる」仕組みになりますが、実際に外して役割を終わらせるかどうかの最終判断を下すのは、これまで通り「家庭裁判所」です。 裁判所や専門家後見人は、何よりも「本人の財産安全」を最優先します。「今ここで後見人を外したら、また次の日常の手続きで家族が困るのではないか」「後見人がいなくなった途端、親が一人で悪質な詐欺や訪問販売に狙われるのではないか」と裁判所が不安視すれば、結局は「念のため継続」と判断され、これまで通り亡くなるまで外せない可能性が十分にあります。 法律が変わっても、運用の主導権が家族にない以上、「期待していたのに何も変わらなかった」という事態になりかねないのです。

課題②:「本人の意思や希望」をどうやって証明するのか

新制度では、元気な頃の希望に沿った柔軟なお金の使い方が認められる方向ですが、「すでに意思表示が難しくなった人の、元気な頃の希望をどうやって客観的に証明するのか」という非常に難しい問題があります。家族の証言や日記、過去の習慣がどこまで裁判所や後見人に「本人の意思」とみなされるかは不透明であり、実務上の大きな壁になると予想されています。

変わらない「遺言書」の重要性

そして、制度がどれほど改善されようとも、「遺言書がいかに重要であるか」という事実は1ミリも変わりません。

ここで私たちが知っておくべき最大の注意点は、「遺言書は、しっかりとした意思能力がある元気なうちしか作成できない」というタイムリミットです。認知症が進行してしまってからでは、後見人制度の見直しがどれほど進んでも、遺言書を書くこと自体が不可能になります。

もし、ストーリーAの高橋さんの父親が、まだ元気なうちにしっかりとした「遺言書」を残していれば、そもそも家族で遺産分割協議をする必要すらありませんでした。協議が必要なければ、認知症の母親に法定後見人を立てる必要もなかったのです。たった一通の遺言書があれば、家族が背負ったあの数年間の苦労と数百万の費用は、すべて未然に防げていた可能性が高いのです。

まとめ:制度の変化を正しく理解し、備えの第一歩へ

今回の法改正により、長年多くの家族を悩ませてきた法定後見制度の「一度始めたら一生やめられない」という最大の欠陥は、ようやく是正される見込みとなりました。必要なときにピンポイントで利用できる道が開かれたことは、認知症リスクを抱える現代社会において非常に大きな前進です。

しかし、新制度になったとしても、外すかどうかの最終的な判断は裁判所に委ねられることや、本人の意思証明の難しさなど、依然としてクリアすべき課題は残されています。また、家族が一番苦労する「遺産分割のトラブル」や「手続きの負担」を根本から防ぐという意味では、意思能力がある元気なうちに用意しておく「遺言書」の重要性は、新制度が始まっても何ら変わりません。

法定後見制度は最終的なセーフティネットです。今回の大きな法改正のニュースをきっかけに、まずは制度の仕組みとこれから起こる変化を正しく理解し、いつか訪れるかもしれない「その時」に向けて、家族の間でどのような事前の準備や対話ができるのか、アンテナを広げていくことが大切です。

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