【コラム】「会社任せ」の時代は終わった? データで見る、老後資金を自ら守るための新常識(企業型DC・iDeCo)

コラム
コラム

はじめに:変わりゆく老後資金の構造

「退職金や年金のことは会社が管理してくれるから、自分はよくわからなくても大丈夫」 もしもそんなふうに考えているとしたら、少しだけ今の現実に目を向けてみる必要があるかもしれません。

先日、厚生労働省から公表された資料(※1)には、今の日本の年金事情と、私たちが直面している課題が客観的な数字で示されています。今回はこの最新データをもとに、私たちが今どのような環境に置かれているのか、そしてどうやって自分の資産を守っていけばよいのか、一緒に紐解いていきましょう。

(※1 出典:厚生労働省「第1回確定拠出年金制度の運用改善等に関する有識者懇談会」参考資料

運用リスクの主体が「企業」から「個人」へ

まず知っておきたいのは、企業年金制度の大きな変化です。長きにわたり日本の企業年金を支えている「確定給付企業年金(DB)」は、会社が運用リスクを負い、従業員に将来の給付額を約束してくれる仕組みです。

現在もDBは大きな柱ですが、個人が自ら運用先を選ぶ「企業型確定拠出年金(企業型DC)」が普及し、DBと同じ規模になっています。これは、「運用の結果が将来の受給額に直結するリスクを、私たち従業員自身が引き受ける時代」になったことを意味しています。

こうした背景もあり、自分で年金を上乗せする「iDeCo(個人型確定拠出年金)」の加入者も一貫して増えています。

iDeCoの「号数」は以下のとおりです。

  • 第1号: 自営業・フリーランス等
  • 第2号: 会社員・公務員等
  • 第3号: 専業主婦(主夫)等
  • 第4号: 60歳以上65歳未満の方や海外居住者等の任意加入

退職金制度の有無と「格差」の現状

企業の退職金制度のシビアな実態も明らかにされています。退職一時金制度がある企業は約半数、退職一時金に加えて企業年金も備えている企業となると、実は4分の1以下しかありません。

特に従業員規模が小さくなるほど、これらの制度が用意されていない割合が高まります。

「長く勤めれば、ある程度の退職金がもらえるはず」という前提は、今や共通の常識ではなくなりつつあります。一度、勤務先の就業規則や退職金規定を改めて確認し、将来の「確実な収入」がいくら見込めるのかを把握しておくことが大切です。

デフォルト商品が抱える「インフレリスク」

企業型DCにおいて、加入者が運用商品を選ばなかった場合に自動で購入される「指定運用方法(デフォルト商品)」についても、少し注意が必要です。

厚生労働省の資料にも例が出ていますが、定期預金や保険などの「元本確保型」をデフォルトに設定している企業があります。デフレの時代であれば「元本が変わらないこと」にも安心感がありましたが、今のインフレの時代では少し事情が異なります。元本確保型資産はインフレに負ける資産だからです。

長期間の運用において、物価上昇(インフレ)を下回る利回りの商品を持ち続けることは、実質的に資産の価値を目減りさせているのと同じことになってしまいます。60歳まで引き出せない「長期運用」が前提の年金制度だからこそ、元本確保型に資金が留まり続けることは、制度が本来意図している資産形成の機能を十分に活かせない懸念があるのです。

一方で、コスト(信託報酬)が相対的に高い投資信託をデフォルト商品にしているケースも見受けられます。長期運用では、わずかなコストの差が将来の受給額に大きな差を生みます。企業側には、低コストで長期保有に適した商品を適切に提示することが求められています。そして、みなさんは、低コストな商品を選択することが大切です。長期運用に適した商品を選択できているでしょうか。

「投資教育」を自分事にできていますか?

多くの企業が「投資教育を実施している」と回答しています。しかし、その内容は社内報の配布や動画配信といった形式的なものに留まっているケースが大半のようです。

本来、投資教育は私たちが自立して資産を作るための支援であるはずですが、実際には情報が一方的に流されるだけで、受け取り側にまで十分に届いていないのが実状ではないでしょうか。会社から流れてくる情報を「自分のお金を守るためのメッセージ」として、主体的にキャッチする姿勢が重要になります。

忘れてはいけない「自動移管」の落とし穴

一番気をつけていただきたいのが、転職や退職に伴う手続きの漏れです。企業型DCの加入者が退職後6ヶ月以内に移管手続きを行わなかった場合、資産は「国民年金基金連合会」へ強制的に移管されてしまいます。

2025年3月末時点で、この自動移管者は約78万人、資産総額は約3,362億円にものぼります。この状態になると、運用が行われないどころか、管理手数料だけが資産から引かれ続けてしまいます。

「忙しいから」「よくわからないから」と手続きを後回しにすることは、長年積み上げてきた大切な資産を、自ら削ってしまうことになりかねません。

おわりに:制度のアップデートに備える

こうしたデータが示す現実を見ると、将来の老後資金を準備する難しさを感じられたかもしれません。しかし、それは決して「もう遅い」ということではありません。むしろ「今、足元を見つめ直すチャンス」でもあります。

特に40代、50代の方であれば、放置されていた資産を適切な場所へ移し、コストや運用先を見直すだけでも、20年先の資産残高に大きな差が表れる可能性が高いです。

iDeCoの加入年齢の引き上げなど、制度は今後もさらに使いやすく変わっていく予定です。これら最新の制度改正については、今後のコラムで解説したいと思います。

国や会社が用意してくれた制度を、どう使いこなすかは自分次第。まずは「今の自分の状況」を正しく知ることから、将来の安心への一歩を踏み出してみませんか。

コメント

タイトルとURLをコピーしました