年間109万円の保険料が4万円に——巧妙な制度の抜け穴
日本維新の会の地方議員が一般社団法人の理事に就任することで、本来支払うべき国民健康保険料から逃れていた問題が明るみに出ました。兵庫県議の年収は約1400万円で、神戸市在住の場合、本来支払うべき国民健康保険料は年間109万円です。ところが、一般社団法人の理事として月1万円程度の報酬を受け取ることで、保険料負担を年4万円程度に圧縮していたといいます。
この問題の本質を理解するには、日本の健康保険制度の仕組みを知る必要があります。地方議員は個人事業主と同様、国民健康保険に加入します。国民健康保険料は全額自己負担であり、収入に応じて保険料が決まります。そして、扶養家族も国民健康保険料を支払って国民健康保険に入らなければなりません。
一方、会社員などが加入する社会保険は、会社が保険料を折半してくれる上、扶養家族は保険料の負担なしで医療サービスを受けられます。つまり、国民健康保険なら家族全員が保険料を支払う必要がありますが、社会保険であれば扶養家族の保険料はゼロです。
問題となった複数の議員の中には、自身の保険料だけでなく、家族の支払いももったいないから最低限の給与をもらっている形にして扶養家族の国民健康保険料を逃れようとした——このような事例も含まれているようです
脱法スキーム——理事報酬という抜け道
一般社団法人の理事として月1万1700円の報酬を受け取り、月3万4000円から5万円の会費を支払うことで、議員たちは社会保険に加入しました。理事としての業務は月2回のアンケートに答える程度で、実態があったか疑わしいものです。
理事報酬が年間14万400円であれば、社会保険料は年4万890円で済みます。本来、年間支払うべき保険料109万円が約4万円に105万円も安くなったのです。そして、そのために支払った費用が約46万円[(5万円-1万1700円)×12ヶ月]と考えると、年間約60万円の得になるという計算になります。
法人の役員になれば、たとえ報酬が極端に低くても社会保険に加入できます。従業員であれば最低賃金の制約がありますが、役員は委任関係であるため、この制約を受けません。この制度の隙をついた巧妙な手口です。
同様のスキームは全国に存在する
この手の「社会保険料削減スキーム」は、今回の事件に限った話ではありません。インターネットで「フリーランス 社会保険」と検索すれば、類似のサービスを見つけることができます。
個人事業主にとって、国民健康保険料の負担は確かに重いものです。特に収入が一定以上になると、保険料は上限に達し、年間100万円を超えることもあります。その負担を軽減したいという気持ちは理解できます。だからこそ、こうしたスキームが広がりを見せています。
一般社団法人の説明資料には「コスト削減の提案」と題して、国民健康保険加入者を社会保険適用者に切り替える方法が31ページにわたり詳しく説明されていました。もっともらしい体裁で、脱法的なスキームが宣伝されているのです。
安易に乗っかると危ない理由
しかし、この手のスキームには重大なリスクがあります。まず、実態のない役員就任は公正証書原本不実記載にあたる可能性があります。
さらに重要なのは、法人の理事に就任すると、法人の登記簿に名前が掲載されるという事実です。登記簿は誰でも閲覧できる公開情報ですから、このスキームに乗っかることは、「私は脱法行為をしています」と世間に本名を公開しているのと同じことになります。
実際、日本維新の会は兵庫県の4人の議員について「国保逃れの脱法的行為」と認定し、除名処分を検討しています。一度、こうした仕組みを利用してしまうと、後から社会的な批判を受けたとき、弁解の余地がありません。議員であれば政治生命に関わりますし、一般の事業主であっても、取引先や顧客からの信頼を失うリスクがあります。
個人事業主の皆さんへ——目先の得に惑わされないために
維新が「応能負担という現行制度の趣旨を逸脱した」と判断したように、この問題は単なる節税テクニックではありません。社会保険制度は、収入に応じて負担し、お互いに支え合うという相互扶助の精神に基づいています。本来高額の保険料を負担すべき人が、制度の抜け穴を使って負担を逃れれば、そのしわ寄せは他の加入者に回ります。
個人事業主の皆さんには、こうしたスキームの勧誘を受けたとき、次の点を冷静に考えていただきたいのです。
まず、年間数十万円の削減効果があるとしても、それは本来社会保険制度に払うべきお金を不当に減らしているに過ぎません。実質的な業務のない法人の理事に就任し、会費という名目で毎月数万円を支払う——この構造自体が、制度の趣旨を潜脱するものだと認識すべきです。
次に、登記簿に名前が掲載されることで、将来的に大きなリスクを抱えることになります。今は問題にならなくても、数年後に同様のスキームが社会問題化したとき、あなたの名前は公開情報として残り続けます。顧客や取引先から「あの人は脱法スキームを使っていた」と見られるリスクを取る価値があるでしょうか。
国民健康保険料の負担が重いという問題は確かに存在しますが、個人事業主として正々堂々と事業を営むなら、社会保険料も正当に負担する——その姿勢こそが、長期的にあなたの信用と事業を守ることになります。
目先のお金に目がくらんで、ご自身の名前と信用を危険にさらすことのないよう、くれぐれもご注意ください。



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