【コラム】定年後の実態を知っておこう ─ 高齢者雇用の大転換期に立つ私たち

コラム
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はじめに ─ 2025年は歴史的な転換点

「60歳になったら定年」というイメージを持っている方は多いかもしれません。しかし、2025年は日本の雇用制度にとって、実は歴史的な転換点となる年です。2025年4月、65歳までの雇用確保が「完全義務化」されました。これまで認められていた経過措置が終了し、希望する従業員全員を65歳まで雇用することが、すべての企業に例外なく義務付けられたのです。

そして今、次なる変化の波が静かに、しかし確実に近づいています。それは「70歳現役社会」の到来です。2025年12月19日に厚生労働省が公表した「令和7年高年齢者雇用状況等報告」のデータを読み解きながら、私たちが直面している現実と、これから訪れる未来について考えていきましょう。

現在の定年後就労を支える「継続雇用制度」

まず、現状を正確に把握しておきましょう。企業には65歳までの雇用確保が義務付けられており、その実施状況を見ると、99.9%の企業が何らかの措置を講じています。ほぼすべての企業が対応しているといえます。

では、企業はどのような方法で高齢者の雇用を確保しているのでしょうか。報告書のデータによると、65.1%の企業が「継続雇用制度」を導入しています。これは、定年後も嘱託社員や契約社員として働き続ける制度です。一方、「定年の引上げ」を実施している企業は31.0%、「定年制の廃止」は3.9%にとどまっています。

つまり、大半の企業では定年年齢そのものは変えずに、定年後に別の雇用形態で働き続ける仕組みを選んでいるのが実態です。この数字が意味することは重要です。多くの企業が「60歳で一度リセット」という考え方を維持しているということなのです。

依然として主流は「60歳定年」

定年年齢の実態を見ると、その傾向はさらに明確になります。

報告書によると、定年を60歳としている企業は62.2%と、依然として過半数を占めています。定年を65歳としている企業は27.2%と、前年から2.0ポイント増加し着実に増えてはいますが、まだ3割に満たない状況です。66歳以上を定年とする企業となると、わずか3.7%しかありません。

法律で65歳までの雇用確保が義務化されているにもかかわらず、多くの企業では60歳が一つの大きな区切りとなっている。この矛盾した状況こそが、現在の日本企業における高齢者雇用の実態を端的に表しているといえるでしょう。

65歳を超えて働ける環境は、まだ限られている

さらに注目すべきは、70歳まで働ける制度を整えている企業の割合です。

2021年4月の法改正により、企業には70歳までの就業機会確保が努力義務として課されました。しかし、実際に措置を講じている企業はわずか34.8%にとどまっています。前年から2.9ポイント増加しているものの、3社に2社は65歳を超えて働く仕組みが整っていないというのが現実です。

65歳以上を定年としている企業(定年制廃止を含む)も34.9%と、ほぼ同じ水準です。つまり、現時点では「70歳まで働ける」というのは、まだ一部の企業に限られた話なのです。

多くの人が直面する厳しい現実

これらのデータが示す現実を冷静に見つめる必要があります。

『大半の人は60歳で定年を迎え、給与が大きく減少した状態で継続雇用制度により5年間働き、65歳という年齢で会社を去ることになる』─これが現在の標準的なパターンなのです。

継続雇用制度では、多くの場合、正社員時代と比べて給与が大幅に下がります。場合によっては半分以下になることも珍しくありません。責任ある立場から外れ、自分より若い上司の下で働くことになるかもしれません。そして65歳になれば、多くの企業では自動的に雇用契約が終了します。

なお、これまで給与減少を補う制度として「高年齢雇用継続給付」がありましたが、2025年4月から段階的に縮小されています。これは国の方針転換を示す重要なシグナルです。「給付金で補うのではなく、企業が適切な給与を払って長く雇う」という構造への転換が求められているのです。

大企業ほど年齢による線引きが明確

興味深いのは、企業規模による違いです。

70歳までの就業確保措置の実施率を見ると、中小企業(21~300人規模)では35.2%であるのに対し、大企業(301人以上)では29.5%にとどまっています。前年から4.0ポイント増加と改善傾向にはありますが、依然として中小企業より低い水準です。

一般的に、大企業ほど年功序列の色合いが強く、定年制度や再雇用の仕組みがより画一的です。60歳、65歳といった年齢で一律に扱われる傾向が、データからも明確に読み取れます。大企業で長く働いてきた方ほど、年齢による処遇の変化を強く実感することになるかもしれません。

確実に訪れる「70歳現役社会」

ただし、これが永続的な状況だと考えるのは誤りです。日本の高齢者雇用政策には、明確なパターンがあります。

過去を振り返ってみましょう。65歳までの雇用確保は、2006年に「努力義務」として始まりました。その後、2013年に希望者全員の雇用確保が「義務」へと格上げされ(ただし経過措置あり)、2025年4月にようやく完全義務化されました。努力義務から完全義務化まで、約20年かけて段階的に進んできたのです。

70歳までの就業確保も、同じ道をたどると考えるのが自然でしょう。2021年に努力義務としてスタートした制度は、2020年代後半から2030年代にかけて、段階的に「義務化」への法改正が行われる可能性が極めて高いと見られています。

現在34.8%という実施率は、むしろ「まだ3分の1しか対応していない」のではなく、「努力義務の段階で既に3分の1が対応している」と捉えるべきかもしれません。65歳雇用が努力義務だった時代と比較しても、企業の対応は比較的速いペースで進んでいるのです。

「働き方の質」も変わっていく

重要なのは、単に「長く働ける」だけでなく、働き方の中身(質)も大きく変わっていくという点です。

70歳までの就業確保措置には、従来の「雇用」という枠組みを超えた選択肢が用意されています。企業が直接雇うだけでなく、「フリーランスとして業務委託する」「起業を支援する」「社会貢献活動(NPO等)に従事させる」といった多様な働き方が制度として認められているのです。

現在のところ、こうした「雇用以外の措置(創業支援等措置)」を導入している企業はわずか0.1%にすぎません。しかし、これは将来の働き方の萌芽といえます。今後は「会社員」という単一の枠組みにとらわれない、より柔軟で多様な働き方が一般的になっていくのかもしれません。

また、年金制度も連動して変化しています。現在、年金の受給開始時期を75歳まで遅らせる(10年繰下げて受給する)ことで、受給額を最大84%増やすことが可能です。将来的には「70歳まで働くのが標準」となり、年金は「それ以降の生活を支えるもの」という位置づけがさらに強まっていくことは間違いありません。

私たちが今、考えるべきこと

制度は確実に「70歳現役社会」へ向かっています。数年後には義務化の議論が本格化し、十数年後には70歳までの雇用確保が当たり前の時代が来るでしょう。

しかし、ここで考えなければならないのは、「会社が70歳まで雇ってくれるか」という受け身の心配ではありません。本当に重要なのは、「70歳まで健康で、自分らしく働けるスキルや環境をどう作るか」という主体的な視点です。

定年が目前に迫ってから慌てて考え始めるのでは遅すぎます。50代、いや40代のうちから、次のような問いに向き合っておくことが大切です。

  • 60歳以降も今の会社で働き続けたいのか、それとも新しいフィールドにチャレンジしたいのか
  • どのくらいの収入が必要で、そのためにはどんな働き方がよいのか
  • 年齢を重ねても通用するスキルや専門性を、今のうちから磨いているか
  • 健康を維持するために、今から何をすべきか
  • 「雇われる」以外の選択肢(起業、フリーランス、社会貢献活動など)は自分に合っているか

こうした問いに対する答えは、一人ひとり異なります。自分の価値観、経済状況、家族の状況、健康状態を踏まえて、早めに考え始めることが何より重要です。

おわりに ─ 変化を恐れず、準備を始めよう

2025年という転換点に立つ今、私たちは過去のモデルに縛られず、新しい働き方を模索する必要があります。

60歳定年、65歳で完全引退という従来のライフプランは、もはや標準ではなくなりつつあります。一方で、70歳まで、あるいはそれ以上働くことが可能な、いや必要な時代が確実に近づいています。

この変化を「負担」と捉えるか、「可能性」と捉えるかは、私たち自身の準備と心構え次第です。定年後の人生は決して短くありません。むしろ、これまでの経験とスキルを活かし、新しい価値を生み出せる貴重な期間といえるでしょう。

自分らしい働き方、生き方を実現するために。今日から、あなたの「70歳現役」への準備を始めてみませんか。


データで見る現実

  • 99.9%の企業が65歳までの雇用確保措置を実施(2025年4月から完全義務化)
  • その方法は「継続雇用制度」が65.1%と最多
  • 60歳定年の企業が依然62.2%を占める
  • 70歳まで働ける企業は34.8%のみ(努力義務段階)
  • 大企業(301人以上)の方が高齢者雇用制度の整備が遅れている傾向
  • 2020年代後半〜2030年代に70歳雇用の義務化が本格議論される見込み

出典:厚生労働省「令和7年高年齢者雇用状況等報告」(2025年12月19日公表)

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