ニュースで「健康寿命と平均寿命の差は約10年」という話を聞いたことがあるかもしれません。
この数字を見て、「えっ、人生の終盤に10年も寝たきり生活を送らなきゃいけないの…?」と不安になった方も多いのではないでしょうか。
結論からお伝えすると、「10年寝たきり」というのは大きな誤解です。
今回は、よく使われるデータのカラクリを解き明かしながら、人生の終盤を自分らしく穏やかに過ごすために本当に必要な「備え」について一緒に考えていきましょう。
覚えておきたい「3つの言葉」と現実的な数字
まず、このテーマを正しく理解するために知っておきたい3つの大事な言葉を整理しましょう。
- ① 平均寿命[*1]
ニュースで見る「平均寿命(男性81.35歳/女性87.33歳)」は、「生まれたばかりの赤ちゃんが平均して何歳まで生きるか」という数字です。幼くして亡くなった方なども含まれるため、すでに65歳を迎えた方の場合、実際はもっと長生きします「65歳平均寿命(男性84.7歳/女性89.5歳)」。これは、65歳の人があと何年生きるかを示す「65歳平均余命(男性19.7歳、女性24.5歳)」に65を足した値で、私たちの実際の生活感覚に近い数字となります。 - ② 健康寿命(男性:約72.6歳 / 女性:約75.5歳)[*2]
「心身ともに健康で、日常の生活に制限がない期間」のことです。 - ③ 平均自立期間(男性:約79.7歳 / 女性:約84.1歳)[*3]
介護保険で「要介護2以上」になっていない、身の回りのことを自分でこなして自立して暮らせている期間のことです。
①平均寿命と②健康寿命の差(男性8.75年、女性11.83年)を見て、「10年寝たきり」と不安に感じる人がいるのです。
ここで知っておいていただきたいのが、「健康寿命」データの集め方です。
実は健康寿命とは、国のアンケートで「あなたは今、健康上の問題で日常の生活に何か影響がありますか?」と聞かれ、「ない」と答えた人の割合を基に計算されています。つまり、完全に「本人の主観」によるデータなのです。
例えば、「少し腰が痛くて重い買い物が辛いな」「最近耳が遠くなって会話が大変だな」と感じてアンケートに「影響がある」と答えれば、その時点で「健康寿命の終わり」とカウントされます。決して「寝たきりになった」わけではありません。
一方、「平均自立期間」は行政の客観的な基準(要介護認定)に基づいています。「主観の健康寿命」と「客観の平均自立期間」という2つの物差しがあることを知っておくだけで、ニュースの数字に惑わされにくくなります。
人生の終わり方は「3つのフェーズ」で段階的に変化する
では、健康寿命が終わってから亡くなるまでの間にどんな段階があるのでしょうか。
今65歳の方がこれから歩む人生の終盤は、一気に「寝たきり」になるのではなく、少しずつ段階(フェーズ)を踏んで変化していきます。

- フェーズ①:元気な期(〜健康寿命:男性72.6歳、女性75.5歳まで)
自分のことはすべて自分ででき、健康に不安なく過ごせる期間。 - フェーズ②:手助けが必要な期(健康寿命〜平均自立期間:男性79.7歳、女性84.1歳まで)
掃除や買いものに少し手伝いが必要だったり、杖を使ったりするものの、工夫すれば一人暮らしや自宅生活が十分可能な「フレイル(虚弱)や要支援・要介護1」の期間(男性7.1年間、女性8.6年間)です。 - フェーズ③:本格的な介護期(平均自立期間〜最終的な寿命:男性84.7歳、女性89.5歳まで)
立ち上がりや歩行、排泄などに本格的な介助(要介護2以上)が必要になり、施設入所や手厚い介護サービスを使う期間(男性5.0年間、女性5.4年間)です。
このように見ると、「10年寝たきり」ではなく、「7~9年は少し手助けが必要な時期で、本格的な介護が必要になるのは後半の5年程度」という実情が見えてきます。
「平均データ」だけで語ることの限界と落とし穴
「なら『平均自立期間』と『平均余命』を基準に考えれば安心だね」と思われるかもしれません。しかし、話はそう単純ではありません。平均値のデータには、いくつか大きな落とし穴が存在します。
① 人によって「介護の長さ」は全く違う
平均値は、「心筋梗塞などで突然亡くなり、介護期間がゼロだった人」から、「脳卒中の後遺症などで10年以上要介護状態が続いた人」まで、全員を混ぜ合わせた数値です。
実際には「ピンピンコロリ」の人もいれば、長い介護期を迎える人もおり、「平均どおりにいく人」のほうが珍しいのです。
② 介護認定を受けずに闘病する人もいる
がんなどの病気で闘病し、介護保険を使わないまま病院で亡くなっていく方もたくさんいます。そうしたケースは「要介護」のデータには表れません。
③「軽度=家族がラク」とは限らない
認知症の場合、要支援や要介護1といった「制度上の認定は軽度」であっても、目が離せない、同じことを何度も聞かれるなど、介護するご家族の精神的・肉体的負担は極めて重いという実情があります。「数値が軽いから安心」とは一概に言えません。
数字に一喜一憂せず「どのフェーズになってもいい準備」を
このようにデータを紐解いていくと、「平均〇年だから大丈夫」「〇年分の介護費用を準備すれば足りる」と一概に言えないことが分かります。
大切なのは、「平均の数字を見て一喜一憂し、思考停止しないこと」です。
どのフェーズになっても、最後まで自分らしく、誇りを持って暮らせるように「今できる具体的な準備」を一つずつ進めておくことです。
では、具体的にどんな準備をすればよいのでしょうか。今日から始められるステップを3つご紹介します。
Step 1:自分の「想い」と「情報」をエンディングノートにまとめる
「もし自分に手助けが必要になったら、どこで誰と過ごしたいか」「延命治療や医療ケアについてどう考えているか」といった自分の意思を書き残しておきましょう。
また、銀行口座や保険、持病や飲んでいる薬などの情報を整理しておくことは、万が一のときに家族や医療スタッフの助けになります。
Step 2:公的保障を知り、お金の「フェーズ別使い道」を整理しておく
介護や医療にかかるお金を考える際、まず知っておきたいのが日本の手厚い「公的保障」です。
介護費用が高額になった際に上限を超えた分が戻ってくる「高額介護サービス費制度」や、医療費と介護費の両方がかさんだときに負担を軽減してくれる「高額医療・高額介護合算療養費制度」など、頼りになる制度が用意されています。
これらの仕組みを知っておくだけで、「いくらかかるかわからない」という漠然とした不安から不要な民間介護保険に入りすぎてしまうリスクを防ぐことができます。
公的保障を前提にしたうえで、「元気なとき(フェーズ①)」、「手助けが必要なとき(フェーズ②)」、「本格的な介護期(フェーズ③)」と、生活の変化に応じた資金計画を立てておくことが、真の安心につながります。
Step 3:地域や社会福祉との「つながり」を作っておく
いざ手助けが必要になったとき、力になってくれるのは家族だけではありません。
地元の地域包括支援センター、社会福祉協議会、民生委員さんなど、地域の相談窓口を知っておくだけでも心の支えになります。元気なうちから顔の見える関係を作っておくことも立派な「終活」の一つです。
おわりに
人生の最終章は、決して「10年間の暗い寝たきり生活」ではありません。誰かの手助けを借りながらも、自分らしく笑顔で過ごせる時間が長く存在します。
未来の平均数字に怯える必要はありません。
「どのフェーズでも大丈夫」と言えるよう、まずはノートを1冊開いて、ご自身の希望や大切な情報を書き出すことから始めてみませんか?
寿命の考え方や、公的保障を知ることの大切さについては、著書「父が溶かした退職金(下)」に詳しく記載しています。ぜひご参照ください。
[*1]厚生労働省:令和7年簡易生命表の概況
[*2]厚生労働省:健康寿命の令和4年値について
[*3]国民健康保険中央会:平均自立期間・平均余命 都道府県一覧(令和6年統計情報分)


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