【コラム】金融庁のレポートから見えてくる投資信託の販売現場の課題:本当の「顧客本位」とは?

コラム
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資産形成の主役として、今や多くの人にとって身近な存在となった「投資信託」。新NISA制度の開始などを背景に、投資信託を通じて将来に備える人は着実に増加しています。

2026年7月、金融庁はリスク性金融商品の販売実態をまとめた最新のレポートを公表しました。今回はこのレポートから、投資信託の販売現場で起きているリアルな実態と、金融機関の「売り手のスタンス」、そして私たちが知っておくべき自衛の知恵について深く掘り下げていきます。

伸び続ける預かり資産と「サテライト資産」への偏重

投資信託の現状

レポートによると、投資信託の販売額は市場環境による一時的な増減があるものの、預かり資産残高全体で見ればすべての業態で拡大傾向が続いています。

一見すると健全に市場が成長しているように見えますが、その中身を分解していくと、販売会社の姿勢に大きな疑問符がつきます。少し気になるのは、毎年5分の1の投資信託が解約されているという現実です。

積極的に販売されているサテライト資産

投資信託は大きく分けて、次の2つに分類されます。

  • コア資産:市場全体の成長を捉えるインデックスファンドなど、中長期的な資産形成の土台となる低コスト・分散型のファンド。
  • サテライト資産:特定のテーマ(AI、半導体など)や地域、毎月分配型、REITなど、高いリターンを狙う反面、値動きが大きく高コストになりがちなファンド。

そして、積極的にサテライト資産を販売している金融機関が数多くあることがわかります。

サテライト資産は本来、コア資産の補完としてポートフォリオ全体の効率を高めるために組み入れるものです。しかし金融庁の分析では、サテライト資産の割合が高い販売会社ほど、「合成シャープレシオ(リスクに対するリターンの効率性)」が低くなる傾向が確認されました。

※「シャープレシオ」とは、取ったリスクに対してどれだけ効率よくリターンを得られたかを表す指標です。数値が高いほど「リスクのわりに効率よく稼げた」ことを意味します。

つまり、サテライト資産を多く買わせている販売会社ほど、顧客の運用効率を下げてしまっているということです。

レポートでは、特定の一つの毎月分配型商品が預かり残高の4割強を占めていたり、毎年流行のテーマ型や毎月分配型へとトップ販売銘柄をコロコロ変えて売っている金融機関の事例が挙げられています。

金融機関にとって、流行りのテーマ型や毎月分配型は「売りやすい商品」であり、同時に「購入時手数料や信託報酬が高い商品」でもあります。顧客の長期的な資産形成のためではなく、「自分たちが売りやすい・儲かる商品」を優先して売っている姿が透けて見えます。

形骸化するポートフォリオ提案の裏にある「本音」

金融機関の多くは「お客様の総資産に合わせた総合的なコンサルティング(ポートフォリオ提案)を行います」と謳っています。

しかし実態は、顧客の資産状況や投資経験の把握が形式的な聞き取りにとどまっていたり、せっかく作成した提案書の活用率が低かったりと、理念倒れになっているケースが多く指摘されています。さらには、購入後の短期解約理由の分析すら十分に行われていません。

相談現場で目にするのは、直近のリターンが良い商品や毎月分配型、手数料が高い商品ばかりを購入させられている顧客の姿です。「顧客の生活や将来のために提案している」と言うのであれば、なぜ高コストなサテライト商品ばかりが売上上位を占めるのでしょうか?

「形式的にはヒアリングをするけれど、結局は売りたいものを売る」。そして顧客が短期で解約しても深い分析をしない。金融機関側がいまだに長期保有を望んでおらず、次々と商品を乗り換えさせる「回転売買」による手数料稼ぎを歓迎しているのではないか、と疑わざるを得ません。

金融庁が明かした「データが示す客観的な事実」

今回のレポートで非常に興味深いのは、金融庁が123社の金融機関(大手行、地方銀行、証券会社)を対象に行った定量分析です。

「顧客の運用損益がプラスになっている割合(投信共通KPI)」と、各種指標の関係を調べたところ、以下のような明確な相関関係が浮かび上がりました。

利益が出ている顧客が多い金融機関ほど、解約率が低い

「顧客の運用益プラス割合(投信共通KPI)」が1%上がると、投信解約率は約0.5%低下する関係性が見られます。つまり、「解約せずに保有し続けるほど利益が出る」という関係性が見られたのです。

利益が出ている顧客が多い金融機関ほど、信託報酬への依存度が高い

「顧客の運用益プラス割合(投信共通KPI)」が1%上がると、「信託報酬から得られる収益(投信ストック収益)の比率」が約1.1%上昇する関係性が見られます。つまり、「金融機関が購入時手数料よりも信託報酬から収益を得るほど、顧客の利益につながる」という関係性が見られたのです。

少し言葉を変えると、「購入時手数料に依存している金融機関ほど、顧客の利益を棄損している」ということです。

信託報酬に依存している金融機関ほど、解約率が低い

「投信解約率」が1%上がると、「信託報酬から得られる収益(投信ストック収益)の比率」が約0.7%低下する関係性が見られます。つまり、「解約する人が多いほど信託報酬から利益が上がらない」ということです。これは当たり前のことでしょう。

少し言葉を変えると、「購入時手数料目当ての回転売買をさせず、じっくり保有させている金融機関ほど、信託報酬から長期の利益が得られる」ということです。

3つの関係性が示す金融機関のビジネスモデルの可能性

「顧客が利益を得ることが満足度向上につながり、解約が減って預かり残高が増え、最終的に金融機関の信託報酬(投信ストック収益)も増える。これは、金融機関と顧客が互いにWin-Winの関係性になり得る。」という持続可能なビジネスモデルの可能性を示唆しています。

なお、ネット証券は信託報酬(投信ストック収益)に依存しており、大手証券や地域銀行はネット証券よりも購入時手数料(投信フロー収益)に依存している傾向があることがわかっています。

Win-Winの裏に隠されたジレンマと私たちが取るべき自衛策

ここまでの議論を一見すると、「ストック(信託報酬)重視=良い金融機関」のように思えてきます。しかし、ここには私たち顧客にとって別の罠が潜んでいることに注意が必要です。

購入時手数料(フロー)に依存した回転売買営業が最悪であることは言うまでもありません。かと言って、「信託報酬が高い商品を長期保有させ、長年にわたって高い手数料をむさぼり続けるビジネス」が、顧客にとって良いとは思えません。

「預かり残高を増やしてストック収益を稼ぐ」という金融機関の戦略方針自体、顧客が安価な優良インデックスファンドを自分で買って放置するスタイルとはバッティングします。

商品を販売して手数料で利益を得る金融機関との取引である以上、「私たちが支払う手数料は、金融機関の利益になる」という根本的な『利益相反』の構造から逃れることはできません。大切なのは、金融機関の「親切な提案」を鵜呑みにせず、私たち自身が最低限の知識を持って自衛することです。

  • 土台(コア資産)は低コストなインデックスファンドで自ら固める
  • テーマ型や毎月分配型などの「サテライト商品」の提案には慎重になる
  • 「本当に自分のための提案か、売り手の都合か」を冷静に見極める

「顧客本位」という言葉を鵜吞みにせず、自分の大切な資産は自分自身の知識と判断で守っていく姿勢こそが、これからの時代に求められているのです。

金融機関との距離感の大切さや資産形成のポイントは、著書「父が溶かした退職金(上)」にも記載しています。ぜひご参照ください。

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