投信の「ウラ側」で起きている顧客不在の実態とは?
2026年7月24日、金融庁から「資産運用サービスの高度化に向けたプログレスレポート2026」が公表されました。
このレポートは、私たちの大切な資産を預かる金融機関(投資信託の運用会社など)が「本当に顧客(投資家)の利益を第一に考えて行動しているか」を、金融庁が対話を通じてチェックした結果をまとめたものです。今回は大手11社の取組の進捗が確認されたほか、新たに7社との対話も実施されました。対話の着眼点は以下のとおりです。

今回はその中から、投資信託が作られ・管理される仕組み(プロダクトガバナンス)に関する「11の課題事例」を取り上げます。
「プロが作った商品だから」「大手が売っているから」と無防備に信じてしまわないために、投資信託の裏側で何が起きているのかを一緒に見ていきましょう。
商品を作る段階の「ごまかし」と「無計画」【商品組成時の対応】
金融機関が新しい投資信託を作ったり見直したりする際、どのような目標や手数料(コスト)を設定しているのか、商品づくりの現場に対する指摘です。
事例1|目標を低くして「達成」と言い張る
【金融庁の指摘】 新たに運用目標等を設定するにあたり、既存商品についても達成可能となるよう目標水準を調整した結果、コスト控除後の超過収益がわずかにプラスとなる水準に設定しているなど、顧客目線で十分な投資家リターンを提供できる目標となっていない
- 【解説&コメント】 運用の「目標」を低く設定することで、コストを引いた後の利益がほんの少しでもプラスとなるようにする事例です。 これでは、成績が悪く見えないように最初からハードルを極端に下げて「目標達成です」と言い張っているようなものです。顧客に満足なリターンを届けようという誠実な姿勢よりも、「失敗と言われないための自己防衛」が優先されているように感じられてしまいます。
事例2|外部委託先と目標すら決めない
【金融庁の指摘】 新商品についても、引き続き、外部委託先との間で運用目標、想定リスク等を明確化していない
- 【解説&コメント】 外部の運用会社に運用を委託する際、めざす運用目標や取ってもいいリスクの範囲すら取り決めていなかったというケースです。 「どんな成果を目指すのか」「どこまでのリスクなら許容できるのか」というゴールを決めずに商品を作るというのは、地図も持たずに航海に出るようなものです。投資家のお金を預かる商品開発として、あまりにも無計画と言わざるを得ません。
事例3|高い手数料の理由を記録に残さない
【金融庁の指摘】 商品組成時の商品性に係る検討内容(商品設定の意図、品質の確保、信託報酬の妥当性等)が議事録や資料として十分に記録・保存されていないため、商品性の妥当性に係る事後的な検証や、商品性に沿った運用等が困難となるおそれがある
- 【解説&コメント】 「なぜこの商品を作るのか」「なぜこの信託報酬(手数料)なのか」という議論の記録が残されていないという指摘です。 社内でも信託報酬の妥当性を論理的に説明できない商品が存在しているというのは驚きです。ともすれば「どういう商品なら高い手数料を取って売れるか」という自社の販売都合ばかりが先行し、投資家への価値提供という視点が置き去りにされているのではないかと疑問を感じてしまいます。
事例4|基準を緩めて「高コストファンド」を作り続ける
【金融庁の指摘】 既存商品も広く達成可能となるよう、評価基準を調整した結果、コスト控除後で十分な投資家リターンを提供できないコスト水準となっている
- 【解説&コメント】 高い手数料を取るアクティブファンド(市場平均以上の成果を目指すファンド)についての指摘です。 評価基準をゆるく調整することで、高い手数料に見合うリターンを出せないファンドを作り続けています。「高コストに見合うだけの付加価値を本当に出せるのか」という厳しい目が、運用会社自身から向けられていない実態が浮き彫りになっています。
見合わないコストと、放置される運用【商品組成後の対応】
商品が売り出された後も、「予定通りの運用ができているか」「手数料に見合う成果が出ているか」を厳しくチェック(モニタリング)する必要があります。
事例5|目標を割っても「プラスならOK」にしてしまう
【金融庁の指摘】 運用目標を設定したにもかかわらず、それを下回っていてもコスト控除後の超過収益がわずかでもプラスであれば改善検討対象外となるなど、運用目標がモニタリングに活用されず、顧客目線で十分な投資家リターンを提供できているかの検討が不足している
- 【解説&コメント】 「運用目標を決めなさい」と指導されたから目標を立てたものの、実際のチェックではほとんど活用されていないという事例です。 目標を下回っていても、手数料引き後の利益がわずかでもプラスなら「改善の必要なし」と処理されてしまいます。「形だけ目標を作りました」というポーズに終わっており、本当に投資家のリターンを増やそうという意図が見えてきません。
事例6|成績が落ちても「ほったらかし」にする
【金融庁の指摘】 引き続き、外部委託先との間で運用目標や想定リスク等に係る取決めを行っていないため、外部委託先の運用状況等を十分にモニタリング・評価できていない
- 【解説&コメント】 事例2と同様に、外部委託先と明確な取り決めをしていないため、運用成績が悪化しても適切な評価や改善要求ができていない状態です。 成績が下がっても放置され、売れなくなったら新しい別の商品に注力して過去のファンドは使い捨て……という、業界の悪いサイクルが想像されてしまいます。
事例7|現場へのフィードバックが行われない
【金融庁の指摘】 運用目標がモニタリングの評価基準として十分に活用されていないため、運用部門への有効なフィードバックにつながっておらず、適切な運用の改善が行われていない
- 【解説&コメント】 チェック体制が形形骸化しているため、そこで得られた反省やデータが実際の運用現場へフィードバックされていません。 「チェックすること」自体が目的化してしまい、商品の質を上げて投資家に還元するという本来の目的につながっていないもどかしさを感じます。
数字の「見せかけ」と不誠実な情報開示【投資家への情報提供】
投資家が「このファンドを買おうか」と判断するための情報開示においても、見せ方の不誠実さが指摘されています。
事例8|見えにくい「借入コスト」が隠されている
【金融庁の指摘】 運用に当たって発生する短期金利コスト(借入コスト)について、過去の実績等の具体的な数値(例:米国短期金利4%)は開示されていないため、投資家が実質的に負担するコストが把握しづらくなっている
- 【解説&コメント】 投資信託の費用は目論見書などに載っている「信託報酬」だけではありません。裏で発生している金利などのコストが隠れていると、投資家は「結局、全体でいくら払っているのか」を正しく把握できません。 コスト開示は昔に比べて進んできたとはいえ、投資家に見えにくい費用がまだまだ残されていることが分かります。
事例9|複雑な「デリバティブ費用」が不透明なまま
【金融庁の指摘】 円建て社債のクーポン部分でデリバティブ等を活用し、追加リターンを狙うファンドについて、デリバティブ等の実質的な費用が十分に開示されていない。料率が変動するため、事前に具体的な数値を示すことが困難な費用等については、過去の実績値や想定される料率水準、その算定方法を開示するなど、コスト水準等の理解に資する情報提供を図ることが望まれる
- 【解説&コメント】 複雑な金融技術(デリバティブ)を使って少し高めの利回りを狙う商品などで、その裏にかかる費用が分かりにくくなっているケースです。 「事前に確定できない費用だから」と言い訳をするのではなく、過去の実績や想定される水準を開示して、投資家が納得して選べるようにする姿勢が求められています。
事例10|評価基準を変えても「過去の成績」をよく見せる
【金融庁の指摘】 ベンチマークを配当抜き指数から配当込み指数へ変更したファンドについて、変更前後の指数を連結して表示している。このような表示方法は、変更前の期間については配当抜き指数との比較を継続することとなり、結果としてファンドのパフォーマンスが実態以上に良好に見るなど、投資家に誤解を与えるおそれがある
- 【解説&コメント】 これは投資家目線で見ると、非常に残念で不誠実と言わざるを得ない事例です。 比較対象の計算方法(配当を入れるか入れないか)を途中で変えたのに、過去のグラフをそのまま一本に繋げて表示していました。その結果、ファンドの成績があたかも昔から優れていたかのように「見せかける」ことになってしまいます。少しでも見た目を良くしたいという姿勢が出ている例です。
事例11|「調子が良い時だけ」指標と比べる
【金融庁の指摘】 月次レポートで継続的に参考指数を開示していないファンドについて、パフォーマンスが良好な時期のみ、販売用資料に参考指数を掲載し、その比較を行っており、期待されるパフォーマンスについて投資家に誤解を与えるおそれがある
- 【解説&コメント】 普段は比較対象(参考指数)を出していないのに、成績が良かった時期だけ「ほら、市場平均よりこんなに勝っていますよ!」とアピールする事例です。 自分にとって都合の良いときだけデータを切り取って見せる行為であり、投資家と誠実に向き合っているとは言えません。
まとめ:無防備に信じ切ってしまう前に知っておきたいこと
今回取り上げた11の課題事例に共通しているのは、残念ながら「顧客目線で行動しているとは思えない」という点です。
金融庁のチェックや指導によって業界全体の改善が進んでいることは確かですが、現実にはまだまだ「自社の利益(手数料の確保)や見栄えのために行動している」と思われても仕方がない事例が存在します。
金融機関側の自省と改善を強く望むとともに、私たち投資家自身も次のような視点を持つことが大切です。
- 「プロが作った」「大手で売っている」からと言って無防備に信じない
- 示されたグラフや数値が「都合良く切り取られたものではないか」と疑ってみる
- 手数料に見合うだけの価値がある商品なのか、自問自答する
資産形成を安心して進めるためにも、こうした「業界の裏側にある課題」を知り、賢い目を持って商品を選んでいきましょう。
(後編は、同じプログレスレポートの「企業型DC・iDeCo」について触れる予定です)


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