NISAのスタート以降、資産形成への関心が高まる中、よく比較されるのが「NISA」と「iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)」です。
その中で一部では、「iDeCoファースト」という考え方が主張されることがあります。「まずは税金がお得になるiDeCoの枠を優先して埋めて、余ったお金をNISAに回すべきだ」という戦略ですね。
しかし、この「iDeCoファースト」を巡って、楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で、FPの山崎俊輔さんが『2027年からの「アンチiDeCoファースト論」』という記事を書かれていました。
今回は、この記事の考え方をご紹介しつつ、一歩引いた視点から、あなたがこれからのiDeCoとどう付き合っていくべきか、分かりやすく解説していきます。
そもそも「iDeCoファースト」論と、2027年の制度変更とは?
本題に入る前に、まずはiDeCoの制度概要と、2027年に控えている変更について簡単におさらいしておきましょう。
iDeCoは、一言で言えば「自分で作る、自分専用の年金制度」です。毎月決まった金額(掛金)を積み立てて投資信託などで運用し、60歳以降に年金または一時金(退職金のような形)として受け取ります。最大のメリットは、毎月の掛金全額が「所得控除」になり、住民税や所得税が安くなるという点です。この税制メリットがあるからこそ、「まずはiDeCoを」という主張がなされてきました。
- 2027年1月からは「掛金の上限額」が変わる
iDeCoは加入者の立場によって毎月の掛金上限が決められています。例えば、企業年金のない会社員や公務員であれば、現行は「月額2.3万円」が上限です。これが2027年の変更によって、会社員や公務員の掛金上限が「最大月額6.2万円」へと引き上げられることになります(※企業年金の有無など、個々の加入状況によって実際の枠は異なります)。


出所:厚生労働省「私的年金制度、iDeCo改正のポイント」
上限が広がるということは、それだけ「非課税で投資できる枠」や「節税できる金額」が増えるということです。しかし、これが理由で「iDeCoファースト論」にブレーキがかかる、という指摘が出ています。
トウシルの記事が語る主張と、そこから一歩踏込んで考えたいこと
トウシルの記事の中で山崎さんは、次のように述べています。
- 「2026年までは枠が小さかったから、月2万円程度を優先して埋める『iDeCoファースト』でよかった」
- 「しかし2027年からは上限が月6.2万円に増額される。これほど大きなお金を、60歳まで引き出せないiDeCoに投入するのはリスクが高すぎる。だから、これからは『iDeCoファースト』ではなくなる」
上限が広がることで、手元の現金が足りなくなる「積み立て過ぎリスク」を懸念し、「iDeCoの拡大枠は、50代からの老後ラストスパート枠として使うのがちょうどいい」という考え方です。
なるほど、現金の流動性を重視した視点です。ただ、この議論を鵜呑みにする前に、私たちは以下のポイントを冷静に整理する必要があります。
ポイント①:掛金の枠をどう感じるかは人それぞれ
「これまではiDeCoファーストがよくて、これからは違う」という区切り方には、少し注意が必要です。 トウシルでの議論は、なんとなく「毎月5万円くらいを投資に回せる人」を一つの前提として展開されているように思えます。
もし毎月5万円を投資できる人が、これまで通り「iDeCoファースト(iDeCo最優先)」を貫いてしまうと、引き上げられた新しい枠の中に5万円全額が収まってしまいます。そうなると、投資に回すお金のすべてがiDeCoに入ってしまい、あとで詳しくお話しする「60歳まで引き出せない(資金拘束)」というデメリットをそのまま受けてしまうことになります。「これまでの2.3万円ならiDeCoに入れても残りをNISAに回せたけれど、新しい上限の6.2万円になったら全額が拘束されてしまう」という層に向けての解説のように思えます。
しかし、毎月の投資に回せるお金が2万円の人の場合、現行の「月2.3万円」ですでに枠が埋まります。枠が広がる前であっても後であっても、状況は変わりません。このように、枠を大きいと感じるか小さいと感じるかはそれぞれの家計の状況によって異なるため、一概に「来年から戦略が変わる」と言い切れるものではないのです。
ポイント②:立場や家計による「前提の違い」を考慮する
資産形成において最も重要なのは、一人ひとりの「立場」と「資金の余裕度」です。 自営業なのか、企業年金がある会社員なのか、公務員なのかによって、iDeCoの上限枠も違えば、将来もらえる国の年金の額も、退職金の有無も全く異なります。当然、毎月のやりくりや、手元に残しておきたい生活防衛資金の額も人によってバラバラです。
そのため、「誰にとってもこれからはiDeCoファーストはダメ」という一律の捉え方をするのではなく、これまでの制度でも、これからの制度でも、常に「自分の場合はどうか」という視点を持つことが欠かせません。
あなたの資産形成に役立つ3つのアドバイス
では、情報に振り回されがちな私たちは、iDeCoとどう向き合えばいいのでしょうか。ここからは、あなたの目線に立った、私からの等身大のアドバイスをお伝えします。
何よりも大切なのは、「iDeCoの特徴(メリットとリスク)」をしっかり知っておくことです。金融機関のパンフレットに書かれているメリットだけでなく、以下の3つのポイントを冷静に見極めてください。
1. iDeCoは「年金」であり、強力な「資金拘束」がある
iDeCoは投資信託などを買いますが、本質は「年金制度」です。そのため、原則として60歳になるまで、途中で引き出すことができません。人生には予期せぬお金のイベントがたくさんあります。そんな時に手元の資金がショートしてしまわないよう、生活に必要なお金まで回してしまうようなことは避けるべきです。
2. 制度や税制は「変わる可能性がある」
今回の変更もそうですが、国の制度は常にアップデートされます。時には、私たちにとって嬉しくない方向へ変わる可能性だってゼロではありません。将来のルール変更のリスクがある仕組みに、過度に依存しすぎるのは禁物です。
3. 「出口(受け取り時)」の税制が非常に複雑
金融機関は、加入時の「毎月の掛金が所得控除になってお得です!」という入り口のメリットは大きくアピールします。しかし、「出口(お金を受け取る時)」の話は非常に複雑です。
実はiDeCoは、受け取る時に「増えた利益」だけでなく、「自分が現役時代に拠出した掛金の元本」も含めた【受取額の全額】が、その年の「収入」として扱われ、課税対象になるというルールを持っています。一括で受け取るなら「退職所得控除」、年金形式なら「公的年金等控除」が使えますが、勤め先から受け取る退職金や企業年金、さらには国の公的年金との「枠の取り合い」が起きてしまいます。この調整や計算は非常に複雑で、一般の人が完璧に理解するのは困難だと言っても言い過ぎではありません。
結論:私たちはどう行動すべきか?
こうしたiDeCoの複雑さを踏まえた上で、これからの資産形成は「iDeCoファースト」ではなく、現在の生活や人生設計を最優先にする「自分ファースト」で考えることが何より大切です。具体的には、以下のように判断してみてはいかがでしょうか。
- iDeCoの仕組みが複雑でよく分からないなら、NISAを使いましょう 「老後のためになにか始めたいけれど、税金や受け取り方のルールが難しくて一歩を踏み出せない」という場合は、まずはNISAを選べば十分です。いつでも売却して現金化できますし、出口の税制も「増えた利益がシンプルに非課税になるだけ」なので、とても分かりやすいです。
- 退職金や企業年金がない・少ない人は、有効に活用しましょう そうは言っても、退職金や企業年金制度が充実していない会社員の方や、そうした制度自体がない自営業の方は、iDeCoを有効に使ってほしいと思います。資金拘束があるからこそ、確実に老後資金を準備できるという側面もあるからです。
- 家計に無理のない範囲での拠出を徹底しましょう いくら節税になると言っても、無理をして拠出した結果、日々の生活が苦しくなっては本末転倒です。まずは現在の生活費や近い将来使うお金を確保した上で、余剰資金の範囲内で活用することが大前提です。
資産形成の正解は、一般的なコラムの中ではなく、「あなた自身の家計の状況や人生設計」の中にしかありません。
「iDeCoファースト」や「アンチiDeCoファースト」といった、他人が作ったキャッチコピーに踊らされる必要は一切ありません。2027年に向けて制度が変わっていく今だからこそ、まずは最低限の仕組みを正しく理解すること。そして、あなたの今の生活と将来のバランスを一番に考えた、あなただけの「自分ファースト」なマネープランを見つけていってくださいね。


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