【コラム】相続発生時の被相続人の保有資産調査ガイド 〜近年始まった新制度を活用して財産の見落としを防ぐ〜

コラム
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はじめに

家族が亡くなった後、相続手続きを進めるうえでまず行わなければならないのが「被相続人(亡くなった方)の保有資産の調査」です。不動産、預貯金、株式、生命保険など、財産は多岐にわたりますが、すべてを把握できないまま遺産分割協議を進めてしまうと、後から新たな財産が発見されてトラブルになりかねません。

また、2024年4月には「相続登記の義務化」が施行され、不動産を相続した場合は3年以内に登記を行わなければ過料(10万円以下)の対象となりました。こうした義務化への対応のためにも、財産の早期把握が重要です。

本コラムでは、近年始まった新制度を中心に、財産の種類ごとの調査方法と注意点をわかりやすく解説します。

主な財産調査制度 一覧

財産の種類制度・調査方法開始時期費用(目安)結果到着
不動産所有不動産記録証明制度2026年2月2日〜1,600円/件(窓口)即日〜郵送
生命保険生命保険契約照会制度2021年7月1日〜Web6,000円・書面7,000円/回約14営業日
預貯金口座相続時口座照会(マイナンバー紐付け)2025年4月1日〜5,060円約1ヶ月
株式・投資信託証券保管振替機構(ほふり)開示請求2009年〜(株券電子化)6,050円〜(代引)約1ヶ月

不動産の調査

所有不動産記録証明制度(2026年2月2日施行)

不動産の調査において、2026年2月2日から「所有不動産記録証明制度」が開始されました。これは、相続人が法務局に請求することで、被相続人が全国に所有していたすべての不動産をリスト化した証明書を入手できる画期的な制度です。

制度の概要

これまで不動産の所有状況を調べるには、市区町村ごとに「名寄帳(なよせちょう)」を取り寄せる必要があり、被相続人が複数の市区町村に不動産を持っている場合は非常に手間がかかっていました。本制度では、法務局の登記データベースを一括検索し、全国の不動産をまとめて確認できます。

手続きの流れ

  • 必要書類を準備する(下記参照)
  • 全国どこの法務局・地方法務局(支局・出張所を含む)で申請できます
  • 窓口申請・郵送申請・オンライン申請の3つの方法が利用可能
  • 手数料を収入印紙(窓口の場合)または電子納付(オンラインの場合)で支払う
  • 証明書が交付される

必要書類(相続人が申請する場合)

  • 所有不動産記録証明交付請求書(法務省ウェブサイトからダウンロード可)
  • 被相続人の死亡を証明する書類(死亡記載の戸籍謄本など)
  • 相続関係を証する書類(戸籍謄本、法定相続情報一覧図の写しなど)
  • 申請者本人の身分確認書類

費用

窓口申請:検索条件1件につき1通あたり1,600円(収入印紙)

オンライン申請:郵送交付1,500円、窓口交付1,470円(電子納付)

注意点 登記簿の氏名・住所で検索するため、登記簿上の住所と被相続人の住所が異なる場合(引越し後も変更未登記など)は、見つからないことがあります。 登記簿がコンピュータ化されていない古い不動産は検索対象外となります。 旧姓・旧住所での登記分は別途検索条件を追加する必要があります(条件ごとに費用がかかります)。 証明書は「登記されている不動産」のリストであり、未登記建物は対象外です。 審査中の登記申請がある場合、その不動産情報は含まれないことがあります。

所有不動産記録証明制度と相続登記義務化の関係

2024年4月から不動産の相続登記が義務化されました。不動産を相続したことを知った日から3年以内に相続登記を行わなければ、10万円以下の過料の対象となります。また、2024年4月以前に相続した不動産についても、2027年3月31日までに登記が必要です。さらに、2026年4月からは不動産所有者の住所・氏名の変更登記も義務化されました。住所等を変更した日から2年以内に変更登記を怠った場合、5万円以下の過料の対象となります(2026年4月1日以前の変更分は2028年3月31日まで猶予があります)。

所有不動産記録証明制度を活用することで、被相続人名義の不動産を漏れなく把握でき、登記漏れを防ぐことができます。

制度開始前・補完的な調査方法

所有不動産記録証明制度の開始後も、以下の方法を補完的に活用することが有効です。

  • 固定資産税納税通知書の確認(毎年4〜6月頃に市区町村から送付)
  • 権利証(登記済権利証・登記識別情報)の確認
  • 市区町村役所での名寄帳の取得(市区町村内の不動産限定)

生命保険の調査

生命保険契約照会制度(2021年7月1日開始)

被相続人が加入していた生命保険が不明な場合、一般社団法人生命保険協会が提供する「生命保険契約照会制度」を利用することができます。2021年7月1日から開始された制度で、生命保険協会に加盟する生命保険会社(2026年3月時点41社)に対して一括で契約の有無を照会できます。

制度の概要

従来は、どの保険会社に加入しているか分からない場合、保険証券が見つからない限り契約を確認する手段がありませんでした。本制度では、生命保険協会を通じて一括照会ができるため、保険契約の見落としを防ぐことができます。

手続きの流れ

  • 生命保険協会の専用ウェブサイトでユーザー登録を行う
  • オンライン申請(マイページから手続き)または郵送申請を選択
  • 必要書類をアップロードまたは郵送する
  • 手数料を支払う(Webはクレジットカードまたはコンビニ払い、書面はコンビニ払い)
  • 手数料の支払い確認から約14営業日後に結果が通知される
  • 契約が確認された場合は、各保険会社へ個別に問い合わせて請求手続きを進める

必要書類(被相続人死亡による照会の場合)

  • 照会者の本人確認書類
  • 被相続人の死亡診断書
  • 相続関係を証する戸籍謄本(または法定相続情報一覧図の写し)

費用

1回の照会につきWeb申請6,000円・書面申請7,000円(いずれも税込)。契約が存在しなかった場合も返金されません。なお、災害時の照会は無料です。

注意点 照会結果でわかるのは「契約の有無(及び保険会社名)」のみです。契約内容の詳細は、各保険会社に個別に問い合わせる必要があります。 死亡保険金が支払済み・解約済み・失効した契約は照会対象外です。 財形保険・財形年金保険、支払開始済みの年金保険契約も対象外となります。 照会できる人が「法定相続人・遺言執行者等」に限定されています(誰でも利用できるわけではありません)。 生命保険契約照会制度は、死亡だけでなく「認知判断能力の低下」「災害による行方不明」の場合にも利用できます。

預貯金口座の調査

相続時口座照会(預貯金口座付番制度の拡充)

預貯金口座については、生命保険や不動産のような全国一括照会制度が長らく整備されていませんでした。しかし、2025年4月1日から「預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律(口座管理法)」に基づく制度が拡充され、マイナンバーと紐付けられた口座については、相続発生時に一括照会が可能になりました。

制度の概要(相続時口座照会)

マイナンバーと紐付けられた口座が対象です。相続人がいずれかの金融機関で「相続時口座照会」を申請すると、預金保険機構が各金融機関に照会し、その結果が相続人に郵送されます。

手続きの流れ

  • 相続人がいずれかの金融機関(銀行等)の窓口で「相続時口座照会」を申請
  • 預金保険機構が、マイナンバーに紐付けられた口座情報を各金融機関に照会
  • 預金保険機構から相続人へ結果が郵送で届く
  • 判明した口座について、各金融機関で相続手続きを進める

費用

金融機関一律で5,060円(税込)の手数料がかかります(相続時口座照会の申請時)。

注意点 マイナンバーと口座の紐付けは任意です。紐付けをしていない口座については、この制度で把握することができません。 現状では紐付け口座数が少なく、制度の効果が限定的な場合があります。生前からマイナンバーの口座紐付けを進めておくことが重要です。 判明した口座の残高詳細は各金融機関に個別照会が必要です。

マイナンバー紐付け制度を利用できない場合の調査方法

マイナンバーとの紐付けがされていない場合は、以下の方法で調査します。

① 通帳・キャッシュカード・郵便物の確認

遺品の中に通帳、キャッシュカード、銀行からの郵便物(残高通知・口座開設案内)がないか確認します。近年は通帳を発行しない金融機関も増えているため、スマートフォン・PCのネットバンキングアプリの確認も有効です。

② 各金融機関への全店照会

取引していた可能性のある金融機関が特定できている場合は、その金融機関に「全店照会」を依頼します。同一銀行内のすべての口座を確認することができます。ただし、全店照会でわかるのはその銀行内の口座のみです。

③ ゆうちょ銀行の現存調査

ゆうちょ銀行では「現存調査」という制度があり、被相続人がゆうちょ銀行に口座を持っているか確認できます。株式・有価証券の調査

証券保管振替機構(ほふり)への開示請求

被相続人が株式や投資信託などの有価証券を保有していた場合、どの証券会社に口座があるか不明なことがあります。そのような場合は「証券保管振替機構(通称:ほふり)」への開示請求が有効です。

証券保管振替機構(ほふり)とは

2009年の株券電子化以降、上場株式はすべて電子データとしてほふりに登録されています。ほふりは日本で唯一の振替機関として、上場株式・投資信託・社債などの証券決済インフラ業務を担っています。

開示請求で判明すること

被相続人が口座を持っていた証券会社・信託銀行等の名称がわかります。ただし、保有銘柄・保有数量・取引履歴などの詳細は判明しません。詳細は開示結果に記載の証券会社に別途問い合わせが必要です。

手続きの流れ

  • 証券保管振替機構のウェブサイトから「登録済加入者情報開示請求書」をダウンロード
  • 必要書類を準備する
  • 書類を東京都中央区の「証券保管振替機構 開示請求事務センター」宛に郵送(書留・レターパック推奨)
  • 書類に不備がなければ、約1ヶ月以内に開示結果が代金引換(簡易書留)で郵送される
  • 手数料を支払って結果を受領
  • 判明した証券会社に連絡し、残高証明書請求・相続手続きを進める

必要書類(法定相続人が請求する場合)

  • 開示請求書(ほふりウェブサイトからダウンロード)
  • 請求者の本人確認書類コピー
  • 被相続人の死亡記載の戸籍謄本コピー
  • 相続人であることを証する戸籍謄本コピー(または法定相続情報一覧図)
  • 被相続人の住所確認書類(住民票や戸籍の附票など)コピー

※2023年2月以降、開示請求書以外の書類はすべてコピーでの提出となりました(原本不可)。提出書類は返却されません。

費用

開示費用は代金引換(郵便局の代引きサービス)で支払います。相続人等による請求は1件あたり6,050円(税込)。ただし、法定相続情報一覧図(コピー)を提出した場合は4,950円(税込)です。同一株主について複数の氏名・住所の組み合わせで調べる場合、2件目以降は1件あたり1,100円(税込)が加算されます。

注意点 開示結果でわかるのは「証券会社・信託銀行等の名称(口座管理機関名)」と「加入者口座コード」のみです。具体的な保有銘柄・残高・支店名は判明しないため、判明した証券会社に対して各自で問い合わせが必要です。 書類の不備があると大幅に時間がかかります。提出前に必要書類を十分確認してください。 郵送のみの受付で、窓口受付はありません。 NISAやスマートフォン証券の普及により、相続人に知らせていない証券口座を保有している方が増えています。念のため照会することをお勧めします。

その他の財産調査方法

① 法定相続情報一覧図の活用(手続きの効率化)

上記のすべての制度で共通して「戸籍謄本」が必要になります。相続が発生したら、まず「法定相続情報一覧図」を法務局に申請して取得しておくことをお勧めします。法定相続情報一覧図は法務局が無料で発行する公的な相続関係図で、一度取得すれば各種相続手続きで繰り返し活用でき、戸籍謄本の束を何度もコピーする手間を大幅に省けます。

② 全国銀行個人信用情報センターへの照会

全国銀行協会の「全国銀行個人信用情報センター」では、法定相続人が被相続人の個人信用情報(借入・保証契約等)の開示を受けることができます。これにより、被相続人の借入状況を把握し、負の遺産(債務)を早期に確認することが可能です。

相続放棄を検討する場合は、死亡を知った日から3ヶ月以内という期限があるため、早期に債務の有無を確認することが重要です。

③ 国税庁・税務署への問い合わせ

被相続人が不動産を売却・贈与していた場合など、過去の税務申告内容から財産の手がかりが得られることがあります。ただし、情報開示には相続人であることの証明等が必要です。

④ エンディングノート・遺言書の確認

被相続人がエンディングノートや遺言書を残している場合、財産情報が記載されていることがあります。遺言書は公証役場で保管されている場合(公正証書遺言)は全国の公証役場で検索できます。法務局での「自筆証書遺言書保管制度」(2020年7月開始)を利用していた場合は、法務局に問い合わせることで確認できます。

財産調査における主な注意点

① 相続登記が未了の不動産に注意

固定資産税を支払っていても、相続登記がなされていないケースがあります。特に祖父母から親への相続が未了のまま、さらに親が亡くなっているケース(数次相続)では、登記上の名義人が被相続人と異なる場合があります。所有不動産記録証明制度は登記名義人で検索するため、こうしたケースでは登記名義人の情報も含めて調査が必要です。

② 手続きには期限がある

各手続きには期限が設けられています。主要な期限は以下のとおりです。

  • 相続放棄・限定承認:死亡を知った日から3ヶ月以内
  • 準確定申告(被相続人の所得税申告):死亡を知った日の翌日から4ヶ月以内
  • 相続税の申告・納税:死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内
  • 不動産の相続登記:不動産の相続取得を知った日から3年以内(義務)

財産調査が長引くと期限に間に合わなくなるリスクがあります。早期に着手することが重要です。

③ 口座凍結への注意

被相続人の死亡が金融機関に知られると、原則として口座が凍結されます。公共料金・クレジットカードなどの引き落とし口座になっている場合は、早めに変更や停止等の手続きを行いましょう。また、口座凍結前に被相続人の口座から預金を引き出すことは、単純承認(相続放棄ができなくなる)とみなされるリスクがあるため注意が必要です。

④ 相続財産の「マイナスの財産」も調査する

財産調査では、プラスの財産だけでなく、借入金・住宅ローン・保証債務などのマイナスの財産も調査する必要があります。マイナスの財産がプラスの財産を上回る場合は、相続放棄を検討する必要があります。

⑤ 専門家への相談を検討する

財産調査は種類が多く、期限もあるため、全て相続人自身で行うのは大変です。司法書士などの専門家に依頼することで、効率的かつ確実に手続きを進めることができます。特に相続税の申告が必要なケースや、複雑な相続関係がある場合は、早めに専門家に相談することをお勧めします。

まとめ

相続発生時の財産調査は、その後の遺産分割協議・相続登記・相続税申告のすべての基盤となる重要な作業です。近年、さまざまな新制度が整備され、以前に比べて調査しやすい環境が整いつつあります。

各制度の特徴と注意点を理解したうえで、漏れのない財産調査を行いましょう。また、手続きには期限があるものも多いため、相続が発生したら早めに動き出すことが大切です。

【参考:主要制度の問い合わせ先】

  • 所有不動産記録証明制度:最寄りの法務局・地方法務局(法務省ウェブサイト参照)
  • 生命保険契約照会制度:一般社団法人 生命保険協会(https://www.seiho.or.jp/
  • 相続時口座照会:お取引金融機関の窓口
  • 証券保管振替機構(ほふり):https://www.jasdec.com/
  • 全国銀行個人信用情報センター:一般社団法人 全国銀行協会(https://www.zenginkyo.or.jp/

※本コラムに記載の内容は、2026年3月時点の情報に基づくものです。制度の詳細・最新情報は各機関の公式ウェブサイトをご確認ください。また、本コラムは一般的な情報提供を目的としており、個別の法律・税務アドバイスを提供するものではありません。個別の相談はお問い合わせください。

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